日本歯科専門医機構認定
インプラント歯科専門医を目指すために

会員各位

2021年8月5日
会 長 阪本 貴司

インプラント治療における歯科専門医(スペシャリスト)とプロフェッション

 プロフェッション(Profession)とは専門職であり,体系的および倫理的に高度な知識,長期の訓練と教育を必要とする能力を備え,社会全体の利益のために尽くす職業と定義される.プロフェッションの語源は「神の前で告白する」という意味があり,聖職者,医者,弁護士などが伝統的に専門職とされてきた.我々歯科医師もプロフェッションであり,責任ある組織集団として認められ,社会と暗黙の契約を交わしている.つまり専門職としての独占権,歯科医師免許を持つことで,治療の自立性と報酬を担保される代わりに,患者に治療の質の保証,道徳心,誠実さ,説明責任などの義務を果たすことを公約としている.
 プロフェッショナリズム(Professionalism)とは社会との契約ともいえる. 一方スペシャリストは,一般的なジェネラリストと対比して,ある職務に精通している人を指す. すべての歯科医がプロフェッションであれば,各学会の専門医はスペシャリストということになる. プロフェッションである我々歯科医は,これらの基本的な考え方であるプロフェッショナリズムを理解し,公共,患者の利益,幸福,安寧に努めなければならない.その中によく知られたインフォームド・コンセントという言葉がある.説明と同意であるが,「医療法の1条の4に医師,歯科医師,薬剤師,看護師,その他医療の担い手は,医療を提供するに当たり,適切な説明を行い,医療を受ける者の理解を得るように努めなければならない」と記載されている.患者説明において最も重要なことは,患者への情報提供であるが,医療者と患者の間には相反することが多い.歯を失った部位へのインプラント治療を考えてみよう.当然,患者は医学知識が少ない. しかし歯を失い,欠損という病気を経験しているのは患者であって,治療する歯科医はその病気を実体験していない.歯科医は教科書や講義での知識をもとに説明をしている.患者にとって,インプラント手術を受けるということは,非日常であり,人生で一度経験するか否かの選択である.一方,歯科医はインプラントや多くの歯科治療を日常的に行っている.患者にとっての主治医は,「私の先生」であるが,歯科医にとっては,「多くの患者のひとり」である.我々はこのような考え方の違いも理解して,患者へ分かりやすい言葉で,丁寧に説明して同意を得る努力をしなければならない.このような社会への奉仕,患者中心の医療の本質を知ることが,プロフェッショナリズム教育,医療倫理教育である.超高齢社会において,歯科医療が様々な社会分野で必要とされる中,プロフェッショ ナリズム教育が重要視されている.多くの治療方法は検査・診断によって決定されるが,患者の年齢や社会的背景,家族の希望など考慮すれば,その治療方法は従来の医療原則に従わず,医療倫理による判断が必要になることもある.例えば,後期高齢者の患者にインプラントを選択するか,義歯を選択するか,抜歯をするかの選択は医療原則よりも主治医の倫理的原則で決定されることも多い.現在歯科において各種学会の専門医が再構築されようとしている.歯科インプラント専門医もその範疇にある.今後国民から必要とされる専門医(スペシャリスト)は,医療倫理や医療安全,感染予防対策などに精通したプロフェッションであることを知って頂きたい.
 本研究会に所属し,研修している会員には,社会から信頼されるインプラント歯科専門医を目指して欲しい.そのためには今後,厚生労働省および歯科専門医機構のガイドラインに従った研修を受けることが義務化される.公益社団法人 日本口腔インプラント学会の専修医・専門医取得の次に,インプラント歯科専門医の目標があると考え,本研究会での研修記録簿(下記からダウンロード)に各自で記載して保管頂きたい.
本会例会参加研修,日本口腔インプラント学会への参加および研修,関連学会や日本歯科医師会での研修など,継続した研修記録が「インプラント歯科専門医」の申請に必要になり,臨床におけるインプラント歯科治療においても,カンファレンスなどにおいて,指導者のアドバイスを受けて術後まで管理することも望まれる.
 ※なお「日本口腔インプラント学会の専門医」「歯科専門医機構認定インプラント歯科専門医(仮称)」の取得を目指さない会員においては,研修記録作成の必要はない.


大阪口腔インプラント研究会研修記録簿

日本歯科専門医機構HP

一般社団法人 日本歯科専門医機構 (jdsb.or.jp)